それは家族全員が寝静まった、冷え込みの厳しい深夜二時のことでした。ふと目が覚めると、一階のトイレから微かに、しかし絶え間なく水が流れる音が聞こえてきました。最初は誰かが使った直後だろうと考えていましたが、十分が経過しても音は止む気配がありません。不審に思いトイレの扉を開けると、そこには便器内に激しく水が流れ込み、水面が異常に波打っている光景がありました。レバーを何度かガチャガチャと動かしてみましたが、手応えが全くなく、水流は勢いを増すばかりです。このままでは明日の朝には水道料金が恐ろしい額になる、あるいはトイレの床が浸水してしまうかもしれないという恐怖が私を襲いました。専門の業者を呼ぼうにも、こんな時間にすぐ来てくれるはずもなく、高額な夜間料金を請求されるのではないかという不安も頭をよぎります。そこで私はスマートフォンを取り出し、震える手で応急処置の方法を検索しました。画面に表示された「まずは止水栓を閉めろ」という指示に従い、私は懐中電灯を持って便器の横に屈み込みました。私の家の止水栓はマイナスドライバーで回すタイプでしたが、あいにく手元に道具がありません。必死で考え、キッチンから十円玉を持ってきて溝に差し込みました。硬貨が折れるのではないかと思うほど強く右に回すと、カチリという感触とともに水音が弱まり、やがて完全な静寂が訪れました。あの時の安堵感は、今でも忘れられません。水が止まったことで落ち着きを取り戻した私は、次にタンクの重い蓋を慎重に持ち上げ、内部を確認しました。すると、タンクの底にある大きなゴム製の栓に、本来繋がっているはずの鎖が絡まり、蓋が開いたまま固定されているのを見つけました。どうやらレバーを強く回しすぎた拍子に、鎖が中で複雑に絡んでしまったようです。指先を凍らせながら冷たい水に手を入れ、絡まった鎖を丁寧に解き、ゴム栓を元の位置に戻しました。その後、止水栓を少しずつ開けてみると、タンクに正常に水が溜まり、規定の水位でぴたりと止まるようになりました。プロの力を借りずに、自らの知識と判断で危機を脱したという経験は、私にとって大きな自信となりました。
深夜に起きたトイレのトラブルを自力で食い止めた緊迫の体験