ある築二十年のマンションで、深夜に発生したトイレのトラブル事例をご紹介します。居住者のAさんは、就寝前にトイレを使用した際、洗浄後にタンクからシューという吸水音が止まらないことに気づきました。マンションという集合住宅の特性上、万が一水漏れが発生すれば階下への被害が懸念されるため、Aさんは即座に応急処置を開始しました。まず彼が行ったのは、トイレ個室内にある止水栓の操作です。しかし、長年の放置により止水栓の溝が錆び付いており、通常のコインでは回すことができませんでした。ここでAさんはパニックにならず、次なる手段として玄関横のパイプスペースにある、住戸全体の元栓を閉める判断を下しました。これにより家中の水は止まりましたが、トイレの異常出水という当面の危機は回避されました。その後、彼は懐中電灯を持ってタンクの内部を詳細に調査しました。原因は、タンク内に設置されていた洗浄剤の容器が倒れ、浮き球の可動域を制限していたことでした。この異物を取り除き、念のためゴムフロートの状態を確認したところ、付着していたヌメリによって密着度が低下していたため、これを古布で丁寧に拭き取りました。元栓を少しずつ開き、水の流入を確認したところ、規定の水位でぴたりと止まるようになり、止水栓を使わずとも問題を解決することができました。この事例から学べる教訓は二点あります。一つは、個別の止水栓が機能しない場合のバックアップとして元栓の場所を把握しておくこと。もう一つは、タンク内には純正品以外のものを極力置かないという予防意識です。特に集合住宅においては、個人の不注意が建物全体の損害に繋がりかねないため、こうした迅速かつ的確な自己判断による応急処置が、非常に重要な役割を果たします。プロを呼ぶまでの時間をいかに稼ぎ、被害を最小限に抑えるか。そのための知識を平時から備えていたAさんの行動は、理想的な危機管理のモデルケースと言えるでしょう。
集合住宅で発生したトイレの給水トラブルを自力で解決した事例の研究